子どもの手続代理人

子どもの手続代理人という制度があります。子どもが家庭裁判所の調停・審判に参加するのをサポートする弁護士のことです。対象となるのは直接に子どもに影響を及ぼす離婚調停や面会交流,監護者指定,親権者指定・変更安堵の手続です。2013年の家事事件手続法施行に伴ってできた制度です。

両親が離婚する場合,父か母のどちらかが親権者となります。子どもは法律行為ができないので本来裁判所の手続に参加できませんが,どちらの親の親権に服するのか,多くの場合どちらの親と暮らすのかに直結する話で子どもにとって自分の生活に関わるとても大事な話です。多くの場合,子どもはどちらの親と暮らしたいかと聞かれても,パパとママと一緒に暮らしたい,というのが本音です。そのような中でどちらかの親と暮らす選択をしなければならないのは過酷ですが,自分にとって大事なことを自分の意見を聞かれることなく決められてしまうのはより過酷です。この手続きで子ども自身の意見を反映させるためにこのような制度が設けられました。

子どもの手続代理人の報酬は,本来的には両親など当事者の負担となります。しかし,親がお金を出したとしても子どもの手続き代理人は親の代理人ではなく子ども本人の代理人として関係者に子どもの意見や気持ちを伝えることが仕事です。

家庭裁判所の手続でどちらの親が親権者となるべきか調査する役割の調査官がいます。調査官がいるのになぜわざわざ弁護士を代理人に選ぶ必要があるのか,と言われる場合もあります。

調査官は子どもの聞き取りを主に裁判所や家庭環境の調査に出向いた場合に行います。その回数は多くの場合1回のみです。調査官は心理などのプロフェッショナルなので調査をきちんとしてくださっていることに間違いはありません。

しかし,裁判所などで1回だけ見知らぬ大人から話を聞かれて自分の意見を十分に言える子どもはそれほど多くありません。

子どもの手続代理人は,自分の事務所での子どもとの面談だけでなく担当する子どもの年齢に応じて場所を変えて複数回面談をします。例えば小さいお子さんの場合には公園などで一緒に遊んで仲良くなってから,思春期のお子さんの場合にはゆっくりと外で散歩をしながら,などまずはお互いの信頼関係を築き,この人は自分の弁護士だから思っていることを言ってもいいんだ,と子どもに安心してもらってから,子ども自身の気持ちをじっくりと聞き取り,裁判所や両親などに子ども自身の気持ちをきちんと伝えることになります。お子さんによっては,「どうしたいのか分からない」という場合もあります。その場合も,「分からない」気持ちを伝えることになります。時間をとって自分の代理人と会話をすることで,お子さん自身がもやもやとした納得のいかない気持ちを整理することにもなります。

子どもの手続代理人が関与した場合と関与しない場合で手続きの結果が変わらない場合も多くあると思われます。しかし,子どもが自分の意見を大人たちがきちんと聞いてくれた,という納得はこれからの親子関係によい影響を及ぼしていくことは間違いありません。

なかなか活用が進まない子どもの手続代理人ですが,金沢では全国的にも傑出して利用数が多くなっており,この制度を有効活用して事案の円満解決を図っています。子どもの手続き代理人の制度の活用がより進むことを希望しています。